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空の遊戯館

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東方水妖記0-1



  東方水妖記  プロローグ・第1話








 



結界に覆われて、外界から閉ざされた幻想郷。

そこには、外の世界では失われた妖怪や魔法使いなども住んでいる。


これは、最近になって新しく現れた、ある妖怪の体験した物語……



















~opening~








僕の名前は穂波 水人。

最近、なりたての妖怪だ。

氷の体で、水を操る能力を持っているから、どちらかと言うと氷精に近いかもしれない。

でも、まだ日が浅いせいかそこまで力が強くないのが難点かな。

僕は吸血鬼の住む館の近くにある湖に住んでいるけど、同じ湖に住む氷の妖精にいつも弾幕ごっこの勝負をふっかけられる。

弾幕ごっこは、言わずと知れた、幻想郷での決闘方法。

真剣勝負から遊びまで幅広く使われてるから、また何とも言えないんだよね。

けれども、やはり「ごっこ」だから、どんなに激しくやりあっても死ぬことはない。

外の世界で殺し合うのに使う道具なんかとは違うしね。

それが、もはや日課にもなりつつあるのが恐ろしい所。

この日も、いつものように始まったなぁ…















~stage1~











「おーい、みみず!いるんだったら、出てきてあたいと勝負しろー!」

今日も、湖の上空でいつものように妖精の少女が叫んでいる。
呼ばれているのが自分だとわかっているので、僕もまたいつものように姿を現す。

「わかったから、そう騒がないでくれよ。それに、僕は『みみず』じゃなくて『穂波水人』。前から何度も言ってるし、せめて水人と呼んでくれよ。」

『みみず』というのは、僕のフルネームを縮めた言い方だ。
僕自身は、あまり気に入っているわけじゃない。

「わかったわよ。じゃあ水人!今日もあたいと勝負よ!」

飽きることもなく、今日も勝負をふっかけてきた。


いつものことだが、この少女はとても好戦的だ。
よく僕相手や湖を通りかかる人物相手に弾幕ごっこをやっているけど、その勝負をふっかけるのもいつも彼女からだ。
そのくせ返り討ちにあったりしてるし、バカだとも言えるかも。
もちろん本人に言ったら怒られるけど。

僕は、少女にいつものように弾幕勝負に応じる。
……でも、少しは刺激が欲しい。
そう思って、僕はある提案をした。



「いいよ、やろう。…でも、たまには何か勝者の特典とかがあったほうが楽しそうじゃない?」

「どういうこと?」

「つまり、勝ったほうが負けたほうに自由に命令できる、とか」

「へぇ…面白そうじゃない。なら、あたいが勝ったらあんたには今日1日氷漬けになって笑い物になっててもらうわよ!」

やはり乗ってきた。
そうじゃないとつまらない。

「なんかいつもと同じような気もするけど…いいよ。ただし、僕が勝ったら当然チルノにも僕の言うことを聞いてもらうけどね。」

僕がチルノと呼んだ少女は、あくまで好戦的に返してきた。

「最強なあたいが負けるわけないじゃない、あんたが氷漬けになりなさい!」

「最強だなんて、いつも通りかかる人に返り討ちに遭ってるのに?」

それに対して僕は煽るように返した。

「何を~!もうなんでもいいから、今日はあたいが勝つの!あんたなんか氷の中でコールドスリープしちゃえ!」

言うなり、いきなり氷弾を飛ばしてきた。
そう誘ったからなのは言うまでもないかな。


これを合図に、この日もチルノ相手の段幕ごっこが始まった……











初撃の氷弾を難なく横に移動して避けると、次は粒弾を放ってきた。

それをうまく避け、打ち返しながらこっちからも粒弾と水弾を作り出して飛ばす。


「――こんなものっ、あたいには通用しないよ!」

そう叫ぶと同時に、チルノに向かって飛んでいた弾は全てチルノの発した強烈な冷気で凍り付いてしまった。

凍った弾は重力に従って下の湖に落下し、姿を消す。

「それだけは、ほんと上手いよなぁ。」
関心したのも束の間、

「そのままあんたも凍っちゃいなさい!『凍符・アイシクルフォール』!!」

チルノはスペルカードを放ってきた。
スペルカードというのは、皆それぞれの特有の能力を使って特殊な攻撃をするときに主に用いるものだ。
そして、必ずスペルカード使う時は、カードを取り出して宣言するのがルールだ。
というか、そうしないと使えない。なぜかは知らないけど。

チルノが放ったスペルカードによって、僕の頭上に多くの氷柱と氷弾が現れた。
それらは、僕に向かってどんどん加速しながら落下してくる。

さらに、これを機に一気に決着をつけるべくチルノは正面からも弾を飛ばしてきた。


上と、正面からの同時攻撃だ。
まだ大きく横に避ければかわせないこともない。
逆に、防いで反撃に出てもいいな。

……この状況なら、まだまだ余裕があると僕は確信した。




チルノとは、毎日のように弾幕ごっこをやっている。
だから、頻繁に使ってくるアイシクルフォールやパーフェクトフリーズは正直慣れてきてる。
僕自身は気合い避けは得意じゃないけど、慣れている弾幕だし弾の密度も濃くないから充分いけそうだ。

そう判断した僕は、一旦後ろに飛び退いて最初の氷柱をかわして正面の弾幕に突っ込んだ。

直撃しそうな正面の弾は体を横にずらして避け、密度が濃くて回避しづらい箇所は薄い部分にまわりこみ、ひたすら降り注ぐ氷柱を体をひねってかわす。

いくつかは体をかすめてるけど、体の中央に被弾さえしなければ支障はない。
回避しながら接近して、遠距離から中距離まで間合いを詰めた。

そしてそこで、

「でぇぇいっ!」

というかけ声と共にあらん限りに弾幕を放出した。
回避して接近する間に撃たずに溜めておいたので、標的をはるかに覆い隠してしまう量だ。


できる限りに分厚くした弾幕を目の前にして、チルノは臆することなく不敵に笑った。

「あたいにはこんな弾幕が効かないって、まだわからないようね!こんなもの、一瞬で全部凍らせてやる!『凍符 パーフェクトフリーズ』!」

チルノがそう叫ぶと同時に、周囲に猛烈な冷気が吹きつけた。

それは、全てを凍らせるスペル。

弾が、弾幕が、僕の弾幕だけではない、氷柱が、水が、全てが凍りつき、動きを止める。

それはまさしく、時間が凍ったかのごとく。


――今だ!


その全てが止まったスキに、僕は一気に接近してチルノの懐に飛び込んだ。


……そう。
最初から、これが目的だった。

あの弾幕は、これを誘発するための布石に過ぎなかった。
もちろん、そのまま被弾してくれても良かったし。


それはともかく、まさかスペルカードのスキをついて至近距離まで接近されるとは思ってもなかったらしく、チルノは一瞬驚いて怯んだ。

その一瞬のスキを、逃さない。

怯んだ瞬間に、至近距離で一気に弾幕を発生させて浴びせかけた。

完全にスキをつかれたチルノは、至近距離の攻撃を避けることも防ぐこともできずに直撃した。

僕が撃ち込んだ弾がチルノの腕・足・体に幾つも被弾し、力を失って真下の湖に向かって落ちていった。




決着がついてから、しばらくはチルノの回復を待った。
弾幕ごっこをしていたのは朝だったから、まだ日は登りきる前ほどだ。

僕がチルノに被弾させた弾は、通常弾とも呼ばれる最も基本的な球状弾。
―――基本的に弾幕ごっこの弾幕は、それを放った人物の霊力・魔力・妖力などをを弾状にしたものだ。
なので、その弾幕の量や密度は術者の力にそのまま比例する。
また、これらは実弾ではないから、身体的ダメージはそこまで大きくない。
主に被弾することで相手の力を削ぐもので、どれだけ喰らっても身体的にはほとんど致命傷にならないから、しばらく待てば回復する。

だからこそ、実弾で殺し合うわけじゃないから、弾幕「ごっこ」なんだ。
もちろん、能力を使って実際に生み出した氷柱やナイフなんかは実物だから当たったら身体的ダメージは大きいんだけど。



……話がちょっと横にそれすぎたかな。
話をもとに戻そうか。


チルノが回復したのを確認した後、湖のほとりに降りて二人で結果などについて話し合った。




「とりあえず、今日は僕の勝ちだね。」

「きょ、今日はちょっと調子が悪かっただけよ!好調なら、あんたなんか瞬殺してやるんだから!」

「…でも、これまでのチルノとの通算戦績からいくと、今日を入れて15戦中7勝6敗2引き分け。好調だった回数は半分もないよ?それに、いくら絶好調でも弾幕ごっこで瞬殺はありえないし。」

「う~、それはあんたが最近調子がいいだけでしょ!次はあたいが勝ってやるんだから!」

こうして会話してるだけでも楽しいけれど、いつまでもこんな話をしてるわけにもいかない。
ここで、話題を変えることにした。

「まぁいいや。……それで、どうしようかな?」

「何を?」

「最初に行ったじゃないか、『今日勝ったほうが自由に命令できる』って。」

「う、そ、それは…」

「約束は約束だしね。さて、どうしようか?」

「本当なら、あたいがあんたを好き勝手してるはずだったのに…」

「でも、現に勝ったのは僕だし。……そうだなぁ、『今後永久に僕の言うことを聞く』とかは駄目だよね?」

「決まってるでしょ!いいわけないじゃない!」

「じゃあ何にしよう…。あれもいいし、これもいいし…」

「先に行っておくけど、できることとできないことがあるんだからね!」

「できないことって…例えば、そうだなぁ…体…」

「ちょっと、何考えてるのよあんたは!バカ!変態!」

チルノは顔を真っ赤にして叫ぶ。
それを、僕はいたって冷静に切り返す。

「え?僕は『体…に危害が及ぶようなのは駄目だよね』って言おうとしたんだけど。」

「でも、明らかに『体』で止めたじゃない!」

「それはそこで言葉がつっかえただけだし、そこでチルノが勝手に早とちりしただけでしょ?『体』の一言で、一体何を考えたのさ。」

「う……」

「そんな『変態』なんて言い放つようなことを考えたんでしょ?果たしてどっちが変態なんだか。」

「…………」

チルノは返答できずに黙ってしまった。
顔は真っ赤にしたまま、体を僅かに震わせている。
ちなみに、最初に「体」と言ったのはもちろんこれを狙って言ってみただけだ。
チルノは、こうやってからかうと実に楽しい。
見ていて飽きないくらいだ。

でも、ちゃんとチルノに命令してやりたいことはもう考えてある。
話を戻すことにした。

「……まぁいいや。いつまでもこんな事してたらそれこそ時間がもったいないし。」

「…バカにしやがって~。今日は負けを認めるけど、次はこうはいかないんだからね!!」

言葉攻めが終わるや否やすぐに強気に戻るチルノ。
相変わらず負けず嫌いだ。

「それで、今度こそまじめに内容を考えたんだけど…」

「結局は何がしたいのよ?あんたは。」

すぐに切り返してくる。
それに、僕は静かに答える。


実は、最初に弾幕ごっこする前に提案した時から、何がしたいかは決めてあった。
他の人からするとごく当たり前の事なのかもしれないような内容だけど、僕にとっては大変なこと。

それを、チルノに手伝って貰おうと思ってる。

そう難しいことじゃない。
だって、僕が望む内容は………









「………湖の外に、出てみたいんだ。」









「え?」

意外にも素朴な内容に、驚いたらしい。

「外に出たい…って、あんた冬に外に出たことあるじゃない。」

それに対し、僕は静かに心境を述べる。

「いや、今。ほら、僕はこんな体だから、比較的寒い日の夜や冬にしか湖の外に出られないだろ?
でも、チルノが一緒なら、チルノの冷気があるから大丈夫なんだ。
これまで、昼に外に出たことがないから春の花を見たことがないし、夜に出ても暗いだけだし。
それに、ついこの前は『全部の季節の花が一度に咲いた』って聞いたし。
本当ならその時について行きたかったのにチルノは一人で勝手にどっか行っちゃったしさ。
もう花は散りはじめてるらしいけど、せめて全部散る前に、それを見に行きたいんだ。」

それに対してチルノはこう答えた。

「あんたがそうしたいのは勝手だけど…、あたいはあの時ロクな目に遭ってないわよ?変な奴には説教されたし」

「それでもいいさ。こんな時は、きっと何十年かに一度しか来ない。
だったら、せめて十分に満喫しないとね。
こんな時にずっと湖にいるのなんて、暇で暇で仕方がないし。」


「確かに、それもそうかもしれないけど…。なら、とっとと行ったほうがいいんじゃないの?」

「そうだね。すぐにでも出発しよう。」

「で、具体的にはどこに行くわけ?」

「一通りあちこちを見て回りたいけど、最初はどこがいいかな?花がある場所がいいけど。」

「あたいは全部見て回ったけど、花が見たいなら花のあるほうにいけばいいんじゃないの?」

「だからそれがわからないから考えてるんじゃないか。
……あっちの道を道なりに進むか、花のありそうな場所を探しながら適当に移動するか、空高くまで飛んで花を探すか。
どうせ探すなら珍しい花が見たいし…。どれがいいだろ?」

「あたいに聞かないで、自分で考えなよ。」

「だよね。さて、どうしようか…」

僕は少し考えた後、こう答えを出した。
闇雲の動き回るだけじゃ効率悪いしね。

「それじゃあ…、効率よく空から見渡すことにするよ。出発は今すぐね。」

「え?ちょ、ちょっと……」

それだけ話すと、僕は一足先に飛び立った。
幸いにも今日は快晴、雲はほとんどない。
上空から何か探すにはもってこいの天候だ。

僕は、端まで行ったことのない幻想郷全体が見渡せるようになるまで、高く、高く昇っていく。
遠くても、花が群生していれば花の色はわかる。
それさえ見つければ、そこに向かえばいいという算段だ。

早く花を見たい、早く色々な場所に行きたい、早く、早く…
胸の奥から沸き上がる、クリスマスプレゼントを心待ちにして眠れない子供のような、妙な高揚感がさらに僕をかきたてる。

「ちょっと、待ちなさいよ~!」

はるか後ろ(下)から、チルノの叫び声が聞こえてきた。
自分では気づかなかったけど、ものすごいスピードで上昇していたらしい。
一旦チルノが追いついてくるのを待って、また上へ上へと向かっていく。

ちらっと下を見ると、既に霧の湖の姿は小さくなっていた。


これまで、湖から出ることはほとんど無かった。
冬にたまに出ても、湖周辺のすぐ戻れる位置なんかが関の山だった。
だから、本格的に外を探索するのはこれが初めてだ。
だから、何があるのか全く知らない。

とにかく、色々なものを見たい、聞きたい、体験したい。


これから自分が目にするだろう綺麗な情景をあれこれ考えながら、期待に高まる胸を押さえきれずに僕はまた一気に飛び出した。





―stage1 clear!―


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